彼女と猫のこんな日常。
6-2
「・・」
「ああ、ごめん。着替えた?」
こくん、とうなずいたルークの額にてのひらを押し付ける。じんわりと伝わってくる熱は明らかに自然ではない。
「の手、冷たくてきもちいー」
りんごのように頬を赤くして、にへらと口元を緩めるこの生き物はなんですか。こんな愛らしい生き物に全幅の信頼を置かれているらしい自分は、どれほど美味しいポジションなのだろう。自分にもしも兄弟というのがいたのなら、こんな感じだろうかとは表情を緩める。
―――ものすごく、甘やかしそうだと思った。
「ルーク、眠いんならもうちょっと寝てろ」
「・・・、がっこうは?」
普段は「なー、今日ぐらいいいじゃん、休んじまえよー!」とロクなことを言わないわがまま坊ちゃまだが、どうしてこんなときばかり殊勝なのだろう。そういう態度が逆に相手の庇護欲を煽るのだと知っていての発言なら大したものだが、無意識での発言だとしても十分問題だ。とてもじゃないが抗いがたい、到底無視できたもんじゃない吸引力は、の意識を完全に出席点から引き剥がした。・・・出席点が3割? それがどうした、貴様らごときがこのルークに敵うものか!
「そんなのお前が気にすることじゃないよ。・・ほら、寝てろって」
さらりと鮮やかな紅の髪を梳き、がふわりと微笑むと。ルークはまるでそれにつられたように笑みを滲ませ、そして先程よりかは穏やかな眠りについたようだ。小さな寝息が聞こえ始める。それをきちんと見届けたはしばらくして携帯を取り出し、メールをものすごい速さで作成し始めた。
宛先 スザク
件名 風邪引いたー (−д−;
本文 なんか熱あるっぽい。出席とプリントの確保頼んでいい? (/_;)
しかし同級である枢木スザクから返ってきたメールに、は思い切り舌打ちをした。
差出人 スザク
件名 Re:風邪引いたー (−д−;
本文 出席したって嘘つくことはできないけど、プリントの確保ならしておいてあげる。お大事にね^ ^
――・・お大事にして欲しいのは、お前のそのルールと正義感で雁字搦めになった生真面目すぎる脳ミソだコノヤロウ!、と携帯を壁に叩きつけてやりたくなったが、ルークの呻き声がそれを止める。危ない、外部との連絡手段を自らの手でぶち壊すところだった。大体、生真面目なら生真面目なのを貫き通して、慣れない顔文字に手を出すくらいならそんなの最初から入れないか、せめて件名のRe:を消しやがれ。微妙に顔文字と本文が食い違っている上にマナー違反だぞ天然すけこまし、などと本人を目の前にしたら到底口には出せない恨み言をぶちまけながら、は即座に次の手段に出た。そう易々と、捨てられるものではないのが出席点。たかが1点、されど1点。姑息な手段といわれれば反論する余地もないが、拾えるものなら拾っておこう。もしかして、捨て置いたその1点に泣く日が来るかもしれないのだから。
宛先 ルルーシュ
件名
本文 出席書いといて。今日サボる
ルルーシュ相手に風邪を引いたなどと下手な嘘をついてみろ、冷たくあしらわれるどころではなく「フン、知っているか? 馬鹿は風邪なんて引かないんだぞ」とあの人を見下すことに慣れた目で罵られるのは火を見るより明らかだ。その挙句ただのサボりだと見抜いた上で、風邪を引いたという嘘を信じているスザクを、直接家に送り込んでくる危険性すら高い。別にただのサボりというわけではないのだが、今ベッドの上で眠っているのが本当は猫だと知らないスザクの目にこの状況は、年下の男と同棲しているとしか映らないはず
――・・そんなことになったが最後、小学校時代に受けた道徳の授業まで遡り、中学高校の保健体育の授業を問答無用で繰り広げられること間違いなしだ。考えただけで恐ろしい。
差出人 ルルーシュ
件名
本文 貸しだからな
こういうとき、融通が利くのはやっぱりルルーシュか、と深く納得しながら、おかゆを作るためには立ち上がる。本当はルルーシュに借りを作るのを嫌って、とりあえずスザクに連絡してみたのだが・・わかってはいたものの、やはりスザクの頭は堅く、ルルーシュは人の弱みを握ることに長けている。
――とは言いつつ、自分もルルーシュに対してはこちらもかなり大きな弱みを握っているからトントンと言ったところか。机の引き出しに仕舞われている写真のネガを思って、はにやりと笑みを濃くする。
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