そんなある日の昼下がり



「見て見てクルルー! 出来たーっ!」

ケロン軍地下秘密基地内部に併設され、いかにも怪しげな雰囲気に満ちたその場所はクルルズラボ。そこは、ケロロ小隊隊長であるケロロですら管理者に用事があるときや頼みごとをしたいときにのみ訪れる、研究室という名のクルルの城である。ケロロから頼まれた荒唐無稽とも思えるハチャメチャな計画を支援すべく、クルルはケロロ小隊参謀としての任務に日がな一日取り組んでいた。そして、そんなクルルの目の前にいきなり突きつけられたのは、最近始まったアニメ番組「ガンダム00」の最新MS ガンダムエクシア。あんまり顔の近くに押し出されすぎているせいで、ガンダムが手にしたビームサーベルの先っちょがクルルのほっぺたを突き刺している。地味に痛い。

「すごくね、コレすごくね!? これ最新のガンダムでさ、なんか結構良さげなんだよこれがまたさぁ」

のこの表情をクルルはどこかで見たことがある気がして記憶を辿・・・ろうとし、けれどそのときには既に思いあたりへと行き着いていた。この顔――でれでれというか、にまにまというか、にたにたというか、顔面筋肉をだらしなく弛緩させたこの顔は隊長とほとんど変わらない。しかもその状況すら一緒だなんて、こいつらはまったくどうにかしている。

「ってちょっと、聞いてんの? クルルさぁーん!」

まったく、本当にどうにかしている。このラボに暇つぶしのためだけにやってくる輩なんぞ、きっと世界中にコイツだけに違いない。というか、いてたまるかコノヤロウ。

「お前・・・見てわかんねぇのかぁ?」
「おお、ようやくクルルもガンダムに興味を示し「そうじゃねぇよ、頭の中までプラスチックで出来てんじゃねぇのか」
「・・・ちょっと待てコラ、“頭の中まで”ってどーゆー意味だよ。俺は体のどの部分もプラスチックでは出来ていません!」
「調べてみるかぁ? やってやってもいいぜぇ・・クックックー」
「謹んで遠慮させていただきます」

侵略作戦の任務遂行中だろうと、趣味の嫌がらせメカを組み立てているときだろうと、至高のカレーを堪能しているときであろうと、とにかくどんなときでも、遠慮の“え”の字もその言動に垣間見せないは、ほとんど無理やりコンピュータの扱いを習得させたあともラボに入り浸っている。手懐けたはいいが、少々――いやだいぶ面倒くさい。第一この気まぐれな生き物は、多少手懐けたところで思い通りになどならないのだ。

「・・・今、クルル何してんの」
「隊長から頼まれた侵略兵器のプログラミングだ。お前の出る幕はねェよ」

コイツの言動は、一見分かりやすいようで分かりにくく、でも結局分かりやすい。こうして自分の隣でモニターを見上げて興味なさそうに振舞いながら、けれどただそれだけでは意味を成さない記号の羅列を追う目は今自分がなそうとしていることを読み取ろうとしていて。だから早めに、釘を打つ。

「わかったらさっさと失せな。そこにいられたら邪魔なんだよ」

はバカだが、マヌケではない。ただこれだけで、自分の意図は伝わるはず―――だった。

「・・・・クルル。このプログラム、組み始めて何日目?」
「ク? ・・・そうだな、3日くらい経ったんじゃねェか?」
「これだけのを、たった3日で・・・?」
「オイ、俺様を誰だと思ってんだぁ? 見くびってんじゃねェよ」

基本的に沸点の高いほうではないは、確かに気を悪くしたらしい。まとう雰囲気がぴりぴりし始める。

「邪魔だって言ってんだろ。さっさと出て「クルル、お前何日寝てないんだよ」

予想外の言葉に、思わずキーボードを叩く手が止まった。

「・・・ここしばらく、クルル寝てないだろ」

コイツの言動は分かりやすいようで分かりにくく、難解なようで酷く単純で。だからしばしば、彼女の思考回路はクルルにとって国家機密を盗み見することよりもはるかに困難さを極めたりする。コイツは一体、何を言わんとしている?

「ンなことねぇよ。睡眠取らねぇと逆にはかどらなくなっちまうからな」

この言葉に嘘はない。それほど急ぎの任務でもないし、3日間も徹夜を強いられるほど差し迫ったものではないのだ。

「ごめん、じゃあ質問を変える。クルル、前にちゃんと横になって寝たの、いつだよ」

相当、かなり随分と納得いかないが自分の行動はに見抜かれているらしい。確かにこのプログラムを組み始めてしばらく、横になって休んでいない。寝るときはこの椅子で、机にうつ伏せている。クルルにとって休まればいいのは脳細胞で、体は二の次なのだ。

「さぁな・・・・はっきりとは憶えちゃいねぇが、とりあえず昨日はここでそのまま寝ちまったなァ」

クーックックック・・・と笑う途中、体がふわりと浮いてクルルは焦った。自分をまるで米俵のように脇に抱えているは、様子を窺う限りあんまり機嫌はよろしくない。が、何がどうしたらの機嫌の急降下につながるのかクルルにはサッパリだ。

「お、おい離せ! やめろって言ってんだろ、離せっ」
「寝よ」
「はァ?」

ようやくがこちらに顔を向け、雰囲気を一変させた。の意味不明な言動に思考が追いついていかない自分を放りだし、腕の中から抜け出そうとする自分ににっこりと笑って。

「クルル、一緒に昼寝しよーよ」



拝啓 隊長どの
なにがどうなったらこうなるのか、俺にはサッパリわからねぇ。・・・なんで俺が、この俺様が、まるで抱き枕か何かのように抱えられて眠らなきゃならねぇんだ。しかもコイツ寝付き良すぎるんだよ、のび太かお前。寝てないのは俺で、お前は昨日だってすぐに寝てやがったってのによ。クッ・・こいつの平和ボケした寝息聞いてたら、俺まで眠たくなってきちまったぜ。任務は――まぁいいか、別に急ぎのもんじゃねぇし。起きたらにも手伝わせりゃいい・・・あ、ヤバ・・・・本気で眠たくなってきた・・・・・・・・クゥ

敬具
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writing date   07.10.26    up date  07.10.27