03/08(Fri)

reported by:clerk



 けたたましく鳴り響く目覚まし時計。布団の中から手を伸ばしてそれを掴みあげ、壁に叩きつけようと腕を振りかぶったところで目が覚めた。…危ない、今年に入って通算三つ目の目覚まし時計を破壊するところだった。ひと月にひとつのペースで新しいものを購入させられていては、いよいよ家計簿に “目覚まし時計費” を計上しなければならなくなる。
 そんな間抜けな事態を避けられた安堵からか、とろりと重たくなる瞼。このままぐずぐずと毛布にくるまって、睡魔とイチャイチャしていたい。飽きることなく乳繰り合っていたい。そうして再びまどろみにとけはじめたわたしの手の中で、時計が震えた。盛大なわめき声と共に。

 目覚まし時計の死体は帰宅後処理することにして、わたしはいつもと同じ時間に家を出た。
 大都市に分類されるライモンシティは、夜ではなく早朝に眠る。しんと寝静まった街は朝もやに包まれ、わずかに明るくなってきた明け方の空には、乳白色の雲がたなびいている。街並みを吹き抜ける風はまだ夜気というのにふさわしく、刺すように冷たい空気が頭にしつこく居座る眠気を吹き飛ばすかのようだった。
 あと一、二時間もすれば、街は息を吹き返すように活気を取り戻し、夜遅くまできらきらと踊り続ける。そんな人とポケモンの営みにあふれた華やかな街も嫌いではなかったが、どちらかと言えば、人もポケモンも同じように寝静まったこの時間帯の街の景色が、わたしにとってはより好ましかった。理由は定かではないけれど。

! おはよ」

 振り返ると、ぱたぱたと駆け寄ってくるクダリさんの姿。……よし、だいじょうぶ。なんともない。

「おはようございます。今朝も早いですね」
こそ。今日もべんきょう?」
「癖みたいになってますからねー」

 寝起き時に累計三つも目覚ましを破壊した人間のセリフじゃないな、とは思ったが、言わなきゃばれないので放っておく。それに、読書以外にこの時間帯をてくてく歩くことも目的の一つになっているのだが、説明するのが面倒くさい。
 あふあふと大あくびを一つ。ふと横を見上げると、赤く染まり始めた空に向かって、クダリさんも大あくびをこぼしていた。なみだが滲んだせいなのだろうか、クダリさんの目の端がきらりと光って、ふと気付いたら、わたしは口をアホみたいに開けたままその光を目で追いかけていた。やがてわたしの間抜け面に気付いたらしいクダリさんが、こちらを見下ろして照れくさそうに笑う。

「あくび、のうつっちゃった」

 ―――こんな、「○○しちゃった、テヘ☆」 みたいな言い回しをナチュラルにできる三十路間近の男の人(上司)が、わたしを……だなんて信じられるか、いや信じられない。なんかの新興宗教みたいだ。その只中にいると熱に浮かされてしまいそうになるのに、一歩外に出てみると、とてもじゃないがまともなことを言っているとは思えない、そんな感じ。…いや、そこまでひどくもないけど。

「……時間、変えなかったんだ?」
「へ? 何がですか?」
「朝、おうち出る時間。…会えないかと思ったけど、早く起きてよかった」

 ……………………。

「………わざと、だったんですか…!?」
「なあんだ、いま気付いたの?」

 驚愕に目を丸くするわたしを覗き込んで、クダリさんがくすくす笑みを漏らす。確かに、なかなか他人に遭遇しない時間を選んで家を出ているというのに、ここ半年くらいやたらクダリさんと顔を合わせるなあとは思っていたが。
 へーえ、やっぱりサブウェイマスターって忙しいんだ、とか適当なこと考えていた自分のバカ、お前はどうしてそんなにアホなんだ! サブウェイマスターが忙しいのは間違いないだろうが、こんな朝早い時間に出勤しなければならないほどであるなら、黒い方にだって遭遇するに決まってるのに。肝心なところでまったく本当に頭が回らない。木偶の坊かこの野郎。

「何してんですか……何してんですかっていうか、ほんともう、あんた何してんスか…」
「ええー? なんか予想してた反応とちがーう! そこはさあ、『クダリさん、わたしのために、朝早くに起きてまで…!』 とかってキュンってするとこじゃないのー?」
「いや、もう正直、理解が追い付かな過ぎてキュンっていうより、むしろゾッとしてます」
「…わかった。キュンってしなくてもいいから、ゾッとするのはやめて、おねがい」

 おっかしいなー、とブツブツ呟く声を聞き流しながら、わたしは口元を覆った手の影で、小さくくちびるを咬む。

「くだらないことしてないで、普通の時間に家出てくださいよ…昨日は休みだったからあれですけど、夜遅くに帰宅なさるときだってあるでしょう?」
「あるけど、くだらなくなんかないもん。だって、と一緒にいられるんだよ?」

 ……いや、そんなことで 「だよ?」 とか言われても。
 わたしにとって、わたしと一緒にいることがなにかの利点になるわけもない。というか、わたしがクダリさんの立場なら、もっとこう、可愛い子を狙う。にこにこふわふわしていて、そう、まるでモンメンのような女の子。そういう子がいい。

「はあ…、そういうもんですか」
「そうだよ! 一分一秒でも一緒にいたい」
「はあ…、大変ですねえ」
「……えっ、なんでさっきから他人事なの? 昨日のぼくのはなし、ちゃんと聞いてたよね?」

 聞いてはいたが、聞いていたことと理解することはまったく別の話であり、理解することと納得することもまたまったく別の話であり、納得することと実感を伴うことはまた別の話なのである。理解も納得もしていなければ実感も伴わないこの状況で、一体わたしにどうしろと。

「まあそういうわけですから、明日からはもっと遅い時間に出勤なさってくださいね。五分でも十分でも、長く寝てください」
「…やだって言ったら、が時間変える?」
「いいえ? やりたいことがあるんで変えないです」
「……ぼくが明日からも、この時間に来たとしても?」

 恐る恐る、というほどではないが、それでもわたしの機嫌をうかがうような、手探り感に満ちた声音だった。白のサブウェイマスターともあろうひとが、わたしなんかの反応にびくついている光景は奇妙というか、滑稽極まりなかったが、不快でもない。媚びへつらわれて悦に入るような性癖も持ち合わせていないから、別に快くもないけれど、気にかけられているのは純粋にありがたいことでもあった。

「別に変えないです。やりたいことあってこの時間に出てるわけですし、まあ、これまで通りなだけなんで」

 クダリさんにそういう意図があったとして、わたしにそれが関係あるかと言われれば、大して関係ないんじゃないかと思う。そんなことで睡眠時間を削るなんて、このひとアホだなあとは思うが、クダリさんがそれでいいならいいのだろうし、そういう意図があったところでわたしが不快に思っているわけでもないのだから、勝手にすればいいんじゃないかというのが本音だ。
 これまでだって、知らなかったとはいえ、そういう気持ちを抱えたひとと二人でとてとて出勤していたことには変わりないわけで、いまさら何を繕う必要もない。

「そ、っか。…うん、そうだよね」
「まあ、クダリさんって頭いいように見えて、実はバカなのかなーとは思いますけど」
「うん! ぼく、バカ!」
「………正真正銘の馬鹿ですよ、本当に」

 心からの呆れを込めたわたしの言葉にころころと鈴を鳴らすように笑ったあと、クダリさんはこてんと首を折って空を振り仰いだ。わたしが家を出たばかりのころ、空を我が物顔で占有していた濃紺のマントは西のほうへと追いやられ、頭上には鮮やかな群青が広がっている。朝日が顔を出す前にしか見られない空の色。ビルとビルの谷間に見える東の空は、明るい橙色に染め上げられつつある。
 空を仰ぎ見たまま、クダリさんが 「でもさあ、」 とどこかぼんやりした口調でつぶやいた。

「ぼく、このくらいの時間の空、好きなんだよねー」
「……へーえ」
「空っていうか、街? なんか、知ってるのに知らない、そんな感じ」
「……………………」
「ずっと暮らしてきたとこなのになんでだろ。なんか好き」

 は? ―――なんて聞かれなくてよかった、と心底思った。




「ここ、空いてる?」

 きつねうどんを啜っていた顔を上げると、向かい側の席にクダリさんがにこにこしながら立っていた。手にしたお盆の上で、Aランチのエビフライがほこほこ湯気を立てている。ちっ、これだから高給取りは、と胸の内で小さく舌打ちしながら、どうぞ、というつもりでもごもご言った。
 ガタガタと音を立てながらクダリさんが食堂の椅子を引く。と同時に、隣のテーブルに座っていた女の子のグループが立ち上がった。

「あれ、もう行っちゃうんですか?」

 思わず声をかけると、女の子たちは互いに顔を見合わせ、それから皆一様ににっこりと笑みを見せた。声をそろえて、「準備がありますから!」 と元気よく答えられてしまうと、わたしとしては引き止めるすべもない。わたしなんかよりずっと若いのに、今どきの子はしっかりしてるなあと、昼休みいっぱい食堂で粘るつもりだったわたしは独りごつ。
 またご一緒させてください、と笑った彼女らにわたしも笑みを返すと、彼女らははっと息をのみ、それから控えめに 「キャーッ!」 と声を漏らして食堂からばたばたと走り去っていく。今日わたしモテモテじゃん、と内心ガッツポーズしながら前を向きなおすと、白のバカが彼女らの背中に向かって手を振っていた。わたしは今度こそ舌打ちを隠さない。

「ちょっとクダリさん、いいとこだったんですから邪魔しないでください」
「ともだち? 部署ぜんぜんちがうみたい」
「総務と広報の子たちだそうです。同期なんですーって言ってました。…あーあ、せっかく女の子とごはん食べてたのに」

 一人めしを食べていたわたしを見かねたのか、向こうから話しかけてきてくれて、少しではあるが食べながら話ができた。「さんってどんなお仕事されてるんですか?」 って聞かれたからざっくりと説明したり、同期の女の子の集まりということで、放っておいても盛り上がる、マメパトのさえずりのような会話に耳を傾けていたのに。……あれ、そういえばあの子たち、なんでわたしの名前知ってたんだろう。

「それにしても、若い子ってかわいいですよねー。なんかもう、若いってだけでかわいく見えますもん」
「うわあ、、言ってることおばさんじゃん」
「そーですよ、おばさんなんですよもう。…あんな風に、手を振ってもらっただけで、わあっ!て喜べる年じゃないんですよ」
「……どーせ若くてもしなかったくせに」

 うるさい。

「みんな可愛かったですけど、真ん中の子はまた特にかわいかったですよねー。髪がふわふわ長くて目もぱっちりで、なんかこう “THE 女の子!” みたいな感じが、チュリネのようで愛らしいというか」
「……そーお?」
「そうですよ。わたしがクダリさんだったら、絶対ほっとかないだろうなあ」

 つやつやと光るごはんを口に運びつつ、クダリさんはひとつ息を吐いた。立ち昇っていた湯気がふっと乱れ、綺麗にひとくち分箸の上に掬われたごはん粒が、クダリさんの口の中に消える。……くそう、ごはんおいしそうだなあ。家計のためとはいえ、三日連続きつねうどんはやっぱりつらいなあ、胃袋的な意味合いで。

「それでなに? 『なんであーゆーコじゃないんですか』 とか言うつもり?」
「ビンゴ!」

 手にしていた箸の先端を突きつけると、クダリさんは今度こそ溜息をついた。わたしの失礼極まりない態度を目にしても殊更注意したり眉を顰めたりはしないが、視線を合わそうとはしない。ただ、いつもより低めな声で 「ノボリに言いつけるよ」 とだけ言われて、わたしはすごすご箸を引っ込めた。残しておいたおあげをつまんで、端っこをかじる。甘辛い汁が口の中に広がった。

「昨日も言いましたけど、クダリさんなら選り取り見取りだろうに。なんでですか?」
「…昨日も言ったけど、他のひとじゃダメだからそうなの。だから、他の女の子すすめてきたってムダだからね」
「ありゃ」
「するつもりだったの? もーっ、勘弁してよー!」

 湯気ののぼるお味噌汁をふうふうしながらクダリさんが言う。クダリさんはチョロネコよろしく、見事なまでの猫舌だ。食べるスピードは速いのに、食べ始めるのが遅い。熱いものは熱いうちに、が信条の私としては、冷めてからじゃないと満足に食べられないなんていろいろ損してるなあと思わなくもないのだけれど、他人の食事風景に口をはさむほど野暮でもない。ただ、冷める前にひと口くれないかな、とはちらりと思った。

「てかさ、昨日も思ったけど、はぼくのこと信じてないの? なんでなんでって、そればっかり!」
「まあ、端的に言うと信じられないですね」
「……効果はバツグンだ…」
「いえーいダメージ二倍!」

 お味噌汁のお椀を手にしたまま器用にうなだれるクダリさんだが、その手元があんまりお留守だったので、お皿の上にちょこんと鎮座していたエビフライをわたしは箸でつかんだ。「あ、」 とクダリさんが間抜けな声をもらすのを聞きながら、そのまま口に放り込む。サクサクと音を立てる衣の食感と、ぷりっとしたエビの歯ごたえがたまらない。どうせならもう少しタルタルソースを多目につけて食べたかったが、そこまでの猶予はなかったからしょうがないだろう。

「うむ、うまい」
「太るよ?」
「殺されたいんですか」
「…あ、でもぼく、女の子はふっくらしてたほうが好きだからダイジョーブ!」
「いや、クダリさんの女の子の趣味なんて興味ないですけど」
「ふくふくしてるくらいのほうが、ぎゅーってしたときやわこくて気持ちいもん。……ねえねえ、これも食べる?」
「食べません」

 なんだその恐るべきフォアグラ化計画。やらせてなるものかと心に誓う。

「はー…もうじゃあ、ふくふくしてる女の子にすればいいじゃないですか」
「あ、またそういうこと言う? てか何、はさあ、ぼくが女の子が相手ならだれだっていいひとだと思ってるの?」
「違うんですか」
「ちがうよ! えっ、昨日のはなし、ほんとに聞いてた?」

 薄いきつね色をしたおつゆをすすり、持ち上げていたどんぶりをお盆に戻すと、目の前にあったのはいかにも不服そうに目を眇めたクダリさんだった。ものを咀嚼しながらもミネズミのように頬を膨らませ、鼠色のひとみはまるで梅雨時の空のように薄暗くよどんでいる。また箸が止まっているので、二本目のエビフライを盗み取ってやろうかと思わなくもなかったが、頭の中を昨日食べたフォアグラのソテーが横切ってやめた。脂肪肝など御免こうむる。

「このままこういう感じで、ってのはダメなんですか」
「………ダメ、かなあ。…うん、たぶんムリ」
「わたし別に、他のだれかとそういう感じになるつもりもないですけど」
がだれかと、っていうことじゃなくて……いや、それもぜったいヤだけど、どっちかっていうと、やっぱりぼくがと、っていうことのが重大なんだとおもう」

 クダリさんがつけあわせの千切りキャベツを頬張る。これはノボリさんにも言えることだが、この双子はスラリとした体つきをしているくせに食が細いというわけでなく、同年代の男性が食べる量と同じくらいか、むしろ二割増しくらいの量をぺろりと平らげる。摂取した余分なエネルギーが一体どこに消えるのか興味関心は尽きないが、よく食べる人、というのは見ていてなんだか気持ちがいいので、彼らと食事を共にするのは割と好きだ。…同じ量だけ食べていたら間違いなく腹とふとももに蓄積するので(それらがなぜ胸に回らないのか、心底理解できない)、セーブするのが大変なのだけれど。

「いまみたいな感じも好きだし楽しいけど、…でも、やっぱりムリだと思う」
「エッチしたいからですか」
「ぶふっ」

 ごはん粒が気道にもぐりこもうとでもしたのか、げほげほむせ返るクダリさんのお盆の上は、咀嚼途中のごはんやキャベツが少々散らばっている。反射的に口を手で押さえてこれなのだから、あの手がなかったら目の前にいたわたしは間違いなくごはん粒まみれになっていただろう。ポケモンバトルで鍛えたクダリさんの反射神経万歳。
 だいじょうぶですか、と口先だけで言いながらお水の入ったコップを差し出すと、いまだ咳を繰り返すクダリさんが涙目でにらんでくる。かけらも怖くない。

「な、んで、…そう、なるのっ?」
「いや、昨日そんなこと言ってたのクダリさんのほうじゃないですか」
「い……ったけど、いや言ったけど、なんかちがう! もっと他に伝えたかった、大事なことが伝わってない気がする!」
「じゃあ違うんですか」
「えっ」
「じゃあ別にしたいわけではないと」
「えっ、いや、あの……そーゆー、わけでもない、っていうか…どっちかって言うと、やっぱりその、」

 もごもご言いながら顔を赤くしてうつむき、箸で味噌汁をぐるぐるかき回す成人男性(しつこいようだがもうすぐ三十路)の姿は異様という他ない。なんなんだこの状況、と思わなくもなかったが、こうなってしまった遠因はわたしにもあるからして、わたしはただ 「それみたことか」 と鼻を鳴らし、最後の最後にとっておいたおしんこをカリカリいわせながら食べた。お茶がうまい。

――…なんでこんな話してるの、ぼくたち」
「…なんでこんな話してるんでしょうね、お昼時に」

 瞬間黙りこみ、顔を見合わせる。ふは、とクダリさんが笑うのと同時に、わたしもつい笑ってしまった。噛み殺そうとしてくつくつと肩が震え、満たされたばかりの腹に鈍い痛みがはしる。

「ちょっと勘弁してくださいよ、ここ食堂ですよ?」
「先に仕掛けたのそっち! ぼくわるくないもん」
「というか、全体的にこんなとこでする話じゃないんですよ。昨日やっとけって話なんですよこれ」
「でも、まっかになっちゃって、ぜんぜん話できる感じじゃなかったの、のせい!」
「…はッ! ド緊張してたどっかのだれかさんには言われたくないです」

 まるで刀身をかち合わせたようにギリギリとにらみ合うも、おそらく同じタイミングで 「…不毛だ」 と思ったに違いない。
 壁掛け時計に視線をすべらせると、昼休みはすでに残り十分を切っていた。わたしのそれに釣られるようにクダリさんも目をやり、残り時間の短さにぎょっと目を向いて残りのごはんとお味噌汁をかっ込む。すっかりぬるくなってしまったお茶を啜り、わたしはわざと間の抜けた声を出した。

「さっさとしないと置いてきますよー、ノボリさんに 『弟さんはちんたらごはん食べてます』 って言いつけますよー」
「ちょ、ちょっと待って! もうおわる!」
「はい、じゃあお先に失礼しまーす。制帽、忘れないようにしてくださいねー」
「待ってってば!」

 だいぶ放置していたのにそれでも熱いのか、瞼をきゅうっと閉じて、無理やりごはんを残りの味噌汁で流し込むクダリさんを後目に、わたしはさっさと歩きだす。
 クダリさんのことだ、放っておいてもどうせすぐ追いついてくることだろう。