十五年八月一日（土）

reported by subway master

拝啓
　お手紙ありがとうございます。ワカヤマ様におかれましては、若葉青葉のみぎり、ますますご清栄のこととお喜び申し上げます。しかしご清栄すぎるのもいけません、イワヤマトンネルをフラッシュの使用なしに越えようとなさるなど、あまりに無謀が過ぎるのではございませんか。「無事越えられたのでよかったです」 などとそういう問題ではないのです。無事に越えられなかったらどうするおつもりだったのですか？ 今度はどうか、手持ちポケモンたちとよくよく相談したうえ、あまり無茶なことはなさらないよう、重ね重ねお願い申し上げます。

　頂いたお手紙を拝読し、わたくしとクダリが似ていることについての貴女様の驚きが伝わってくるようでございました。双子を見たのが初めてということであれば、その驚きもひとしおだったことでございましょう。しかし、わたくしよりもクダリのほうが幾分若いように見えるとは、あんまりではございませんか？ わたくしは双子の兄です。確かにクダリより数分、もしくは数秒早く生まれ落ちましたが、それだけの違いにございます。クダリが若く見えるのでしたら、それに瓜二つなわたくしも、同様に若く見えるはず。貴女様の記憶にあるわたくしと、写真のクダリとをよくよく見比べてくださいまし。……人によっては、わたくしはクダリより色めいて見えると評判なのでございますよ？

　先のお手紙をお送りしたあとになって、貴女様に 「お付き合いしている男性はいるのか」 などと不躾なことを書いたと、大変反省していた次第であります。妙齢の女性のプライベートに土足で踏み込むような真似をして、大変申し訳ございませんでした。…それから、お答えくださってありがとうございます。わたくしとしても、是非、貴女様とこうしてお手紙のやりとりを続けさせて頂きたいと思っております故、お返事を拝読した折には大変安堵いたしました。忙しいなどと、とんでもございません。こうして貴女様に手紙をしたためるにあたり、わたくしも日頃の生活を鑑みる機会に恵まれたと、とても喜ばしく思っております。

　それに、シャンデラの一件についても大変参考になるご高説を賜りまして、心から感謝している次第でございます。のシャンデラが、わたくしのシャンデラにそのような思いを抱いていたとは……目から鱗でございました。ですがいくつか言い訳をさせていただくのであれば、のシャンデラはヒトモシの頃よりわたくしのシャンデラに大層懐いておりまして、わたくしのシャンデラも弟分ができたように感じていたのか、甲斐甲斐しく面倒を見ていたのでございます。ですが今回、貴女様に指摘されてよくよく思い返してみたところ、確かにのシャンデラはわたくしのシャンデラを避けるような素振りを見せることがありました。また、二人で遊んでいる姿も最近はほとんど目にした記憶がございません。

　―――…まさかあのブーケが、果たし状だったなんて……。

　世にも美しい果たし状があったものでございます。ですがなるほど、をバトルに巻き込むわけにはいかないという配慮から、果たし状を受け取る前に焼き尽くしてしまったシャンデラの行動は理解できます。がわたくしに謝り倒した理由も同様に。
　やクダリには話したことがなかったのですが、のシャンデラとわたくしのシャンデラが将来的に、番としてうまくいってくれればいいなと思っておりましたので、今回のことは大変残念でございます。勿論、の承諾が必要になってくる話ではございますが、こういった問題は当人同士の気持ち次第。幼いころの仲睦まじい様子から考えるに、きっとうまくいってくれるであろうと考えておりましたのに……。正直、悔しい思いはありますが、わたくしもシャンデラの親でございます、彼女の幸せを考えればこそ無理に進めてよい話ではございません。ご縁がなかった、ということなのでございましょう。

　さてこの手紙がお手元に届くころ、貴女様はカントー発電所、もしくはシオンタウンで一息ついておられる頃合いでございましょうか。いくら旅することに慣れておられるとはいえ、気付かぬうちに疲労は蓄積しているものでございます。どうかきちんと屋根があり、ベッドのある場所で、ポケモンたちと共にしっかりした休息をお取りくださいまし。貴方のマスターはきちんとお休みを取っていますか、とピジョンにお聞きしたところ、驚くべき速さで首を横に振られましたよ。わたくしも、貴女様の身を案ずる人間のひとりでございます。どうか、ご自愛くださいまし。

　わたくしも貴女様に心配をおかけすることのないよう、厳選作業はほどほどにして参ります。

敬具

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