03/20(Wed)
reported by:temp
扉のまえに立って、ひとつ深呼吸。
ばくばく心臓が音を立てているのがわかって、我ながら苦笑が漏れた。そういえば、初めてここに立ったときもやたら緊張していた気がする。“サブウェイマスター” なんて、語感が仰々しいんだよな。あのひとたちの存在自体、割と大袈裟だし。……中身はまあ、そうでもないけど。
気を取り直すように息をついて、わたしは胸の高さに手を掲げた。ノックを三度。
「失礼します」
机に向かっていたお二人が、顔を上げる。ああ、と息をつき、少し微笑んでくれたノボリさんの傍らで、クダリさんは何か言いたげな仏頂面だ。浮かべる表情が逆じゃねえのか、と思わずにはいられなかったが、なにもこんな日にまで悪態をつくことはない。…こんな日にまで悪態をつかれていることに関しては一言物申したい気分ではあるが、相手はクダリさんである、深く考えたら負けだ。
ノボリさんが席を立つ。机を回り込んで、わざわざわたしの前まで来てくださったノボリさんに遅れること数十秒。「…クダリ、」 とたしなめるように名を呼ばれ、不承不承といった表情でようやくクダリさんが席を立った。わざとガタガタ音を立てているような気がする。…子どもか!
「本日が、勤務最終日でございましたね」
「はい。最後のごあいさつに伺いました」
今日でわたしはギアステーションを辞める。契約通りの丸一年、ギアステーション臨時職員としての日々も、今日で終わり。前々からわかっていたことだから引き継ぎもスムーズだったし、机回りの整理整頓も、ここ数日ちょこっと帰りを遅らせることで済ませているから、あとはわたしがここを去ることで、すべてが滞りなく終了する。
他部署へのあいさつも終わらせ、最後に訪れたのがこのサブウェイマスターの執務室である。
「この一年、大変お世話になりました。ありがとうございました」
「それは、わたくし共の台詞でございます。、この一年本当にありがとうございました」
深々と腰を折られて、なんというか、むず痒い気分になる。ノボリさんは無駄を好まない。下手な世辞や、上っ面だけの慰めなど口にするようなひとではないから、投げかけられた言葉はすべて彼の本当で、嘘偽りのない本心なのだとわかってしまう。それがどうにも気恥ずかしく、そしてどうしようもなく誇らしい。口の端がもにょもにょするのを止められない。
「けれど正直なところ、明日からの姿をお見かけしなくなるというのを、わたくし、想像できないのです」
「それは、わたしもです。…さっきわたし、明日のクラウドさんの勤務予定、確かめてましたもん」
「……別にいらしてもよろしいのですよ?」
「タダ働きはごめんです」
わたしが笑ってそう言うと、ノボリさんもふっと表情をほころばせた。それもそうでございますね、と静かに笑うそのひとの目尻には、やさしいしわがうっすらと刻まれている。わたしがそれに気付いたのはいつのことだったろう。いつも仏頂面で、見ようによってはいつも不機嫌そうに見えるこのひとの、表情の多彩さに気付けたのは。
「
――クダリ、貴方からはよろしいのですか?」
「……………………」
じっと自分の足元を睨みつけているクダリさんは、わたしと目すら合わさない。まあ、三月に入ってから徐々にわたしと交わす言葉数が少なくなり、挨拶の声が消え、気付いたらステーション内でもあまり姿を見かけないようになり、見かけてもぴゅーっと逃げ出してしまうようになっていたこのひとが、最後の最後に愛想よく笑顔で送り出してくれるとは端から期待していなかったが、それにしたって。
クダリさんの、ぱっと花が咲くような満面の笑みというのを、最後に見たのはいつだったかしらと記憶をたどる。一か月前は、まさかクダリさんがこんな態度に出るとは予想もしていなかったから、彼のそういう表情もわたしにとってはどこか当たり前のものだったのだが。こうして会うたび会うたび、初対面のノボリさんばりの仏頂面を見せられていては、あの笑顔が懐かしいとすら思う。
「クダリさん、わたし、クダリさんの笑った顔、案外好きだったんですけど」
「
――――…っ」
「もうわたしには、笑ってくれないんですかねえ?」
ちら、と目を上げたクダリさんと、一瞬視線が絡む。けれど即座に顔ごと背けられてしまって、苦笑するほかなかった。なんかこう、ようやく懐き始めたチョロネコに再度警戒されてしまったような、一抹の寂寞感である。懐き始めたのに浮かれて、うっかり構いすぎて嫌われたりしたのならまだしも、今回の場合わたしはなんにもしていない。別にかくとうやむしタイプのポケモンをけしかけたわけでもないし、漢方薬の類を与えたわけでもない。納得いかないなあとは思うが、
「まあ、嫌になっちゃったんなら、しょうがないですよね」
最初は、できるだけ関わりたくないと思っていたひとの笑顔を、ここまで惜しむことができただけ僥倖だ。寂しくはあるが仕方がない、ひとの心は移ろうものだ。
「本当にありがとうございました。お二人に出会えて、よかったです」
「こうして世界を超え、貴女に出会えたこと…、とても感謝しております。これからもどうか、お元気で」
「はい。お二人の活躍、すこし離れたところから期待させていただきます。……ってまあ、どうせライモンシティ内にはいるんですけどね、わたし」
「
――次の仕事先は、決まっておられるのですか?」
「ああ、いえ……わたし、派遣自体やめようかと」
意味を図りかねたように、ノボリさんが眉根を寄せて首をこてんと傾けた。知らぬ存ぜぬを貫いているクダリさんも、ぎゅっと寄せられていた眉間のしわがわずかに緩み、こちらの意図を推し量ろうと耳をそばだてている。
「貯金で食いつなぐかバイトをするかはまだ決めかねてるんですけど、わたし、ちょっと勉強しようかと思って」
「…勉強、でございますか?」
「はい。ギアステーションの採用試験って、筆記あるんですよね?」
「
―――…は?」
ぽかん、と口を開けたままノボリさんが目をまあるくしている。その横でクダリさんもまったく同じ表情をさらしていて、わたしは思わず笑ってしまった。さすがに双子なだけあるなあ、と妙なところで感心してしまう。
「わたし、ギアステーションの中途採用試験、受けてみようかと思ってるんです」
これを打ち明けたら、サブウェイマスターのお二人はさてなんて言うだろう。ここ最近ずっとそんなことを考えながら日々を過ごしていたが、具体的な想像はできないまま、ついにこの日が来てしまった。まあ驚くのは間違いないだろうが、「こいつ急に何言い出してんの?」 という感じなのか 「うっそ、まじで?びっくりー!」 という感じなのかでも全然違うし、「いやいや無理でしょ」 と真実を突きつけられるかもしれないし 「んなことやってねえで派遣しとけよ引き継ぎめんどくせえ」 と正論叩きつけられるかもしれないし、もしかしたら 「いえ、当社は中途採用受け付けておりませんが」 とリサーチ不足を露呈するかもしれない。どれもありそうでなさそうな、うーん、やっぱり当日言ってみて反応を見るのが一番だな、と結論付けて今。
お二人そろって、こおり状態なうである。
「………じょう、だん?」
「…半月ぶりに口きいたかと思えば、ひとの決意を冗談呼ばわりとは、いい度胸してますねクダリさん」
「だ、だって! ぜったい派遣がいいって言ったの、の方!いつかえってもいいように、って、」
「こっちにいる、理由ができたんです」
「え……」
「こっちに来て十年経って、いろんなひとに出会って、いろんなことやってきて、…これまで、揺らいだことなんてほとんどなかったんですけど。でもちょっと、この一年は内容が濃すぎたっていうか、」
本当にいろんなことがあった。
雲の上の人物だと思っていた、サブウェイマスターのお二人と親しく言葉を交わせるようになり、褒められ、叱られ、無様な泣き顔をさらし、秘密を打ち明け、ポケモンたちと絆を育み。こんな人間関係を築いたのはこの十年、いや、元の世界も含めてわたしには初めてのことだったから、戸惑うことも、理解できないこともたくさんあったけれど、なによりバカみたいに楽しくて。
「守るものができるのは、ずっと、怖くて。まあ、今でも正直、大事なものができるのも、大事にされるのも怖くてたまらないんですけど、でももう、そういうこと言っていられる状態でもなかったことに、やっと気付いたんです。…そうやってわたしが子どもみたいにわがまま言って、見ないふりして、聞かないふりして、知らないふりして、そうしてるあいだに、傷つくひとがいるんだって、やっとわかったんです」
ここじゃなきゃ、気付けなかった。わからなかった。
それがわたしにとってプラスになるのか、マイナスになるのかはわからない。もしかしたら、この決断を十年後には後悔しているのかもしれない。でも、わからない未来に怯えるのはやめようと思う。いつ来るのかわからない未来に、今を託すのも終わりにしよう。
――だって、今は 「今」 じゃないと、生きられない。
「こんなわたしを大切にして、信じてくれるなら、わたしもそれに応えたい。…わたしも彼を大切にしたい。彼を守って、守られて、そうしながら一緒に生きていきたいって、初めて思えたんです」
来るべき日が来たら、それはその時だ。いざそうなったら考えればいい。
予想通り、大切なものを抱えて帰りづらく感じるなら帰らなきゃいいし、それでも帰りたいと思うなら帰ればいい。この先わたしが何をどう考え、どう感じるのかなんてどうせそんなものわからないのだから、今を楽しく生きようとして何が悪い。
…無責任?知ったことか、そんなのわたしを甘やかすこいつらが悪い。だって、知らなきゃきっと頑張れたのに。何かを守って、何かに守られて、誰かを甘やかして、誰かを甘やかす、その心地よさをわたしに知らしめたのは、こいつらだ。一度知ってしまったら、もう離れられない。
「だからわたし、ここで頑張ろうかと思うんです。
――…ルクスと一緒に」
ぽんっと軽い破裂音がして、腰のモンスターボールからポケモンが飛び出してくる。
――ろうそくポケモン、ヒトモシ。わたしの、たったひとりのパートナー。
鳴き声をあげて胸にすり寄ってくるヒトモシを抱きしめて、わたしが与えた彼の名を呼ぶ。嬉しそうに紫炎を揺らし、黄色の目を細めるルクスの愛らしさといったら、世界中のだれにも負けないと思う。…思うっていうか、絶対負けない。この子が一番かわいい。間違いない。これは絶対普遍の真理である。
ルクスと思う存分いちゃいちゃして、ふと視線を戻したら、いい年こいたおっさん二人が床にくずおれていた。なんだこれ、気色わる………いや、天下のサブウェイマスターともあろう方々が、一体どうなさったのだろう。心配だなあ。
――ちょっと、この子本物の馬鹿だ、みたいな顔でわたしを見ないでくださいますか、黒のボス。それから、部屋の隅っこで壁に向かって体育座りするのやめてください、白のボス。何言ってるのか全然聞こえませんけど?
「………あのさあ…は、バカなの?」
「いきなりなんなんですか、最終日にケンカ売ってるんです?」
「だって、もう……っもうさあ、バカじゃない?」
「わかりました、ケンカ売ってるんですね。おいで、ルクス」
「モシ!」
「しばらく没収です」
はっと気付くと、モンスターボールをスられていた。ノボリさんの長い指がボタンを押し、わたしが声を上げるより先にルクスが赤い光となってボールに吸い込まれてしまう。もちろん、返してくださいというわたしの言葉に、わたしからルクスを取り上げた張本人であるノボリさんが耳を傾けるはずがない。ルクスの入ったボールは今、ノボリさんの手持ちであるオノノクスの手の中である。オ、オノノクスとはまだコミュニケーションを取り始めたばかりだったので、飛びかかってボールを取り戻したい、ところではあるが、まだちょっと怖い。無理やりボールを取り返そうとして、せっかく慣れ始めてきたオノノクスに嫌われるのもイヤだ。しかも、オノノクスの勇ましい眼光はどこか申し訳なさそうな光を湛えていて、そんな顔されたらもうわたしに為す術はない。すまんルクス、世界中で誰より一番愛しているのはルクスだが、わたしはノボリさんのオノノクスも大好きなんだ…!許せ!
「あーもー…ぼく、なんでなんだろ。なんか悲しくなってきた…」
「“だからこそ”、なのでしょう? なにをいまさら」
「……いや、まあ、そうなんだけど、…そうじゃないってゆーか…」
「すいません、何の話されてるんですか? とりあえずバカにされてることしかわかんないんですけど」
「「それがわかったら十分」 でございます」
とりあえず、思わず言葉もかぶるほど全力でバカにされているらしい。
やがて、オノノクスの手の中からモンスターボールを取り、ノボリさんはぶすくれるわたしにそれを返してくれた。鉛色のひとみが苦笑まじりに、やわらかな眼差しでわたしを見下ろしている。手袋を外した手が、わたしの髪をするりと撫でた。
「らしいご決断だと思います。…よく決心されましたね」
「いろいろ、考えたんですけど。あの子に名前をあげたいって考えてから、今日までずっと悩んでて、でも、いま言葉に出してやっと心が決まった気がします」
「宣誓、というわけでございますね」
「はい。だから、これからもよろしくお願いします、ノボリさん」
「ええ、こちらこそ。困ったことがあったら、いつでも声をかけてくださいまし」
さて、十分前までわたしと目すら合わせようとしてくれなかったクダリさんは、話をさせてくれるのだろうか。というか、あれだけバカバカ連呼されたのだ、わたしもへその一つや二つひん曲げていてもいいんじゃないか?
そういうわけで、わたしはノボリさんのように口をへの字に曲げてクダリさんに向き合うことにした。クダリさんはちらとわたしを見上げてへらりと笑い、困ったように頬をかく。…かわいこぶってりゃ許されると思うなよ。こちとら割と本気であたまにきているのだ。無視した理由くらい、吐けこのやろう。
「あの、……おこってる?」
「…………………」
「あ、あの、ごめんね? むし、なんかして……おこってる、よね?」
「別に構わないです。わたしのことが嫌になったんだったら、仕方ないんじゃないですか?」
「ちっちがう!ほんとにちがう! のこと、いやになったりなんてぜんぜんしてない!」
「へーえ、そりゃあ光栄ですねえ」
わたしがそう言うと、クダリさんは表情をくしゃくしゃにした。「ちがうの、本当にそんなんじゃなくて、」 と必死に言い募る様子に、なけなしの良心がずきりと痛む。なにより、目の高さはわたしより上にあるのに、なぜか目線は上目遣いという、わたしには到底し得ない高等テクを駆使するクダリさんに、適うはずがなかった。
はあ、と不平や不満の類を溜息として吐き出して、それから言葉を口に乗せる。人間、肝心なのは諦めだ。
「もういいですよ」
「………?」
「クダリさんにも、クダリさんの考えがあってのことなんですよね? じゃあもういいです、終わったことですし」
「…も、おこってない?」
「はい。ただ、ああいう手段に出る前に、ひとこと言ってください。直せることなら努力しますし、無理なら反論しますから。…ああいうのは、あんまり好きじゃないです」
「うん……、ごめんね」
ごくごく当たり前のようにクダリさんの腕がわたしの背中にまわり、正面からぎゅうと抱きしめられる。なんでこうなる、と思わなくもないが、今更のような気もする。これは所謂あれだろ、元の世界で言うところのハグってやつなんだろう? わたしは生粋の日本人でパスポートを持った経験もなかったからあまり馴染みはないが、こっちの世界だと街中でたまに見かけたりするし、親愛や友愛を示す挨拶みたいなものだと認識している。よくわかんないですけど、そういう括りでいいんですよね?
まあそれだと、一時期やたらめったら張り付いてきたこのひとが、急にぱったりとしなくなった理由がよくわからないのだが、わからないことだらけのことを深く考えてもどうせよくわからないままにしかならないので、とりあえず考えないようにしておく。臭いものにはフタの原理だ。
「わかってくださったんなら、それでいいです。もう怒ってないですよ」
「うん…。あのね、」
「なんです?」
「あのね、ぼく、のこと好きだよ。…だいすき」
―――…なんですと?
「あー…っと、わたしも、すきですよ?」
うん、まあ、さすがになんて返したらいいものか言葉には詰まりますよね。こんな状態だし。…というか、このひといっつもこんなこと女の人に言ってまわってるんだろうか、だとしたらいつか絶対刺されるに違いない。男の人って信用ならないわー、とくだらないことを考えていると、ふっとクダリさんが笑った気がした。ほわりと気を抜いた感じじゃなく、自嘲するようにとでも言うのだろうか、斜め上に見上げた顔が、泣き出しそうにも見えた。
「…クダリさん?」
「……ん。いまは、それでいーや」
スッと視界に影が差す。鼻と鼻のあたまがちょん、と触れ合って、口の端にやわらかな感触。
「いまは、これでいい」
―――…せ、せくはら…?
いや、ほっぺにちゅーもハグの延長線上っていうか、挨拶の一環みたいなもんですよね。だとしたらやっぱりこれも別れの挨拶に違いない、あいさ……にしてはずいぶん際どくねーか?場所的に。いや、くちじゃなかったけど、あれほっぺでもないだろ。食べカスでもついてたのかな、さっき人事部に挨拶に行ったときお菓子たらふく食べてきたからちょっと自信ないなー、やだわあもう女子力ってなに?わたし意味わかんなーい、…じゃなくて、さっきのあれはどう解釈すればいいのだろう、クダリさんって何考えてんのかほんとわかんねえ。でもまあ、“あの” クダリさんだしなあ、すれ違う女の子にこんなことしててもあんまり驚かないかな、うん。じゃあやっぱりさっきのは、軽くセクハラ気味な別れの挨拶ってことで、ファイナルアンサー。
最後にクダリさんのデンチュラを心ゆくまで抱きしめさせてもらって、「じゃあ、また来ます」 と頭を下げた。中途採用の募集なんて定期的にあるものじゃないから、いつになるのかはわからないけれど。まあ、なんとかなるでしょ、多分。これまでだって、なんだかんだありつつ、どうにかやってこられたんだし。
「次にお会いするときは正社員として、でございますね」
「ぼく、ずっと待ってるから」
「はい。本当に、ありがとうございました」
……最低でも、一年くらいはかかると思ってたんだけどなあ…。
人生ってほんと何が起こるかわからない。まさかあれから半年後にギアステーション事務員採用の募集がかかって、うまいこと滑り込めてしまうとは。いやもちろんしっかり勉強はしたし、これで割と社会経験はある方だから、それを駆使させていただきましたけれども。それでも配属場所までこうだと、さすがに作為的なものを感じずにはいられないがまあ、一年間の働きぶりを評価してくれたものだと信じ、期待に応えられるようにこれからまた頑張るしかあるまい。
腰のモンスターボールをするりと撫でて、わたしは扉のまえに立つ。ランプラーへと進化した我が相棒は、懐かしの気配を感じ取ったのか、ガタガタとボールを揺らしてすでに臨戦態勢である。初っ端からケンカ売るのは勘弁してくれ、と思うがまあ、らしいっちゃらしい気もする。
気を取り直すように息をついて、わたしは胸の高さに手を掲げた。ノックを三度。
「ギアステーション鉄道本部運輸部事務補佐、です。失礼します」
お付き合いいただき、ありがとうございました!
あとがき
2012/05/10 脱稿