Q and A

reported by:XXX



証言1 (運輸部鉄道員、Cさん)

 お忙しいところすみません。いくつか、質問をさせていただいてもよろしいですか?

「おお、構へんよ。わしに言える範囲のことしか答えられへんけど、それでもええなら」

 もちろんです。では、白のサブウェイマスター、クダリさんのことをあなたはご存知ですか?

「そりゃもちろんや、わしの上司にあたるおひとやからな。たまーにぷらぷらしとることもあるけど、仕事もできるし、ポケモンバトルに関しちゃ言わずもがな。白ボスも黒ボスも、尊敬できる上司っちゅーやつやな。…年下やけど」

 では、さんをご存知ですか?

? …黒ボスやなくて、のことか? あー、それもちろん知っとる、わしの部下やからな。
 今年の三月まで、あいつ派遣でここ来ててんけど、それが終わってしれっと辞めて、そしたら半年して今度は正社員になって戻ってきよった。もうほんまビックリしたわ、気が変わったら相談せえよて言うたのに結局何も言わへんし。らしいっちゃらしいけど、もうちょっとそのへんどないかならんのやろか、あいつ。……まあ、戻ってきてくれて助かってんねんけどな」

 白ボスとさんのことについて、何かご存知ですか?

「ぶはっ、なんやお前、それが聞きたかったんか! いやー、黒ボスやのうてのこと聞いてくるから変やなあとは思うとったけど、なるほどなァ。
 白ボスとのこと、つったらやっぱ、なんや知らんけど白ボスが入れ込んでるってことやわな。…あれいつ頃やったかな、去年の冬…いやもうちょい前か? まあそのあたりに、白ボスが急に “のこと好きになっちゃったー” て言い出して、あれからずっと白ボスの片思いっちゅーやつや」

 白のサブウェイマスターが、片思いですか。

「せや、笑えるやろ? これまでずっと別嬪さんはべらかして、ちゃらちゃら遊んどったひとが、あんなちんちくりんに惚れるだけでもウォーグルのメスみたいな話やのに、ぞっこんな上まるで相手にされてないなんて、クルミルがサザンドラに進化するみたいな話やで」

 告白等はされていないのでしょうか。それから、“ぞっこんな上まるで相手にされていない” ということについて、よろしければお聞かせください。

「あー、どうなんやろな。告白したんかしてないんか、はっきりしたことは知らんわ。…まあ、もししてたとしても、ラブやのーてライクにとられて、結局言ってないも同然になってそうやけど。
 実際、相手にされてないんはその通りや。白ボスが大した用でもないのに、ちょこちょこの顔見に俺らの事務室しょっちゅう来てはるのも勿論あのアホ気付いとらんし、何かにつけてお菓子やらアイテムやらポケモンの育成本持って来たりしてんのも、わしら鉄道員全員への差し入れやと思っとる。この前の忘年会のときなんか、酔った白ボス腰に抱きつかせたまま、あいつ平然とした顔で新人と喋っとったからな。顔色一つ変えへん」

 なるほど…。しかしそれだと、酔っていたというのも素振りだけのような気もしますが。

「微妙なとこやなー。あんとき座ってるとこ遠かったから話聞けてへんし、わからんわ。でも、と話しとった新人の顔、引きつっとったような気ぃもするから、ただの牽制かもしれへんな」

 白ボスは、だいぶ警戒されておられるのですね。

「そこも笑えるとこや。あの白ボス、本気でが他の男に掻っ攫われること警戒しとる。あり得へんっちゅーの」

 白ボスの振る舞いをお聞きする限り、さんという方はとても魅力的な女性であるようにお見受けするのですが、あなたはそうは思わないということですか?

「あーいや、になんか問題があるとかそーゆーわけちゃうねん。ものぐさで、たまに口ごっつう悪いけど、わしらにも物怖じせえへんし、ノリもええしな。もちろん仕事もちゃんとしよるし、ええ奴なんやけど…」

 タイプではない、ということですか?

「いや、なんつったらええんやろ……わざわざ自分のもんにせんでもええやん、別に。まあ嫁さんおるからそう思うだけかもしれへんけど、なんかおるやろ、友達として付き合うてるからうまくいっとる、みたいなやつ。あれやあれ。ダチになるとかやったらわかるけど、がわしの女になるとか、想像つかへんわ」

 では、白ボスのお気持ちを知ったときには、驚かれた?

「やたらちょっかいかけよるなあとは思うとったけど、まさかこうなるとは思わんかったからなあ、そら驚いたで。キレーな姉ちゃんたちとおるん楽しそうにしてはったし、ひとりに絞るとかそーゆーことは一生せえへんひとなんやろうなと思っとったから。…あ、それが特別悪いとかいいとか、そういうことを言うつもりはまったくないで? 生き方の一つや、いいも悪いもあらへん」

 現在の白ボスは、そうではないということですか。そんなに変わられたのです?

「あの日以来、ぱったり女と遊ばんよーになったからな、白ボス。ほんまぱったりや、急に相手されんよーになった女共が哀れになるくらい、誘われたところで迷いもせえへん。あれにはビックリしたでほんま。……職員内でも割と話題にのぼっとったのに、かけらも気付いてなかったにはもっとビックリやったけど」

 では最後にお聞かせください。白ボスとさんには、今後どうなってほしいと思いますか?

「そらやっぱ、うまいこといってくれればええなあと思うわ。
 変な言い方やけど、白ボスにしろ黒ボスにしろ、どっか人間離れしたよーな雰囲気あるやろ。なんせ天下のサブウェイマスターや、仕方ないねんけどな? まあでもそれが、を好きやーって言い出してからこっち、なんや妙に人間臭くなったっちゅーか、なんちゅーか。あの白ボスが、飲み会ででっかい溜息ついて、焼酎あおりながら 『ぼくこれからどーしたらいいの?』 なんて言いよるの、あんたさん想像でけへんやろ?」

 それは、確かに。想像つかないです。

「ちなみにあのひとの最近の口癖、『ぼくもう人間やめたい。ポケモンになる』 やからな、笑えるでー」

 ………?

「惚れた女に好いてもらうために、白ボスも必死やっちゅーことや。微笑ましいことやで、ほんま。……涙ぐましいとも言えるけど」

 では、カギを握るのはさんのほう、ということですか?

「…せやな。からその辺の話聞きだそ思ても、あいつほんまに気付いてへんからなんの情報もでてこんし、どーなっとるんかわしもよォ知らんのやけど。……ああ、のことやったらあいつのがたぶん詳しいから、そっちに聞き」



証言2(運輸部鉄道員、Cさん)

 お呼び立てして申し訳ありません。白ボスとさんのことについて、お聞きしたいのですが。

「白ボスと? アー、あのモドカしいってユーカ、見ててハズカシクなるヒトタチ? イーヨー、って言ってモ、俺もあんまシ詳しくナイケド」

 あなたの目からみて、お二人はもどかしい、ですか。

「ダッテそージャナイ? 白ボスナンテ、つい一年くらイ前まで女の子と結構好きニ遊んでタノニ、今ジャなにしたらがヨロコぶか、アタマ抱えてバッカなんだモン。
 俺なんてコノ前、休憩室で白ボスが、『女の子って何されたらうれしいって思うの?』 って、シャンデラ……あ、黒ボスのシャンデラって女の子なんダケドサ、ソレに話カケてるの見ちゃっテ。ナンカわかんないケド、俺ガ動揺しちゃっテサ、ソノあとマサカの五連敗。アレ、悪イの俺じゃナイと思ウんだヨネ」

 ポケモンに…相談、ですか………。

「ウン、だいぶキてるデショ? テユーカ、今マデはどーやっテタんダってネ。まあ、が特殊ナノもアルとは思うケド、ソレにシタッテ…ネエ?」

 さんは特殊なんですか?

「ン、ンー……ダッテこの前の忘年会ノ時、腰に白ボス抱きついテるノニ、全然知らん顔ナンダヨ? オカシくナイ? モウ、なんかヨリ周りノ女の子タチのほうが顔赤くしちゃっテサ、とてもじゃナイケド見てらんナカッタヨ」

 女の子たちの悲鳴が聞こえてきそうです。

「まア、白ボスのアレは絶対周りへの牽制ダッタと思ウけどネ。酔ってもイタんだろーケドサ」

 さんとそのとき話をしていたっていう方への、ですか? 確か、最近配属されたばかりの新人さんでしたよね。

「ウチの新人研修、一年カケテ全部の部署経験させルからネー。は中途で事務職ダカラ、そーゆー研修はナカッタはずだケド、もしかしたらドッカで顔合わせテタのカモ。最初の席決めで、彼がスーッとの横取っちゃっタときの白ボスの顔ったら、そりゃモウヒドかったヨー。サブウェイマスターっていったラやっぱ上役ニあたるカラ、席なんて自由ニ取れナイし、ミンナに酒がまわってキテやっと移動デキル。
 だからモウ、忘年会始まル前から、白ボス、目が据わっテたもんネ。とりあえず生、じゃナイんだヨ? ドコの世界に、とりあえず芋たのむヒトいる?」

 でも、お話だけ伺っているとその新人さんが特にさんに、その…、手を出したというわけでもないようなのですが、白ボスは嫉妬深いのですか?

「見たトコ、ヒドそうだよネ。…これマデあんま誰かに嫉妬スルこととかナクテ、加減ガわかんないダケに見えナクもナイけど。あとはタダ不安なんじゃナイ? の気持ちガ自分に向いてナイの、わかっちゃってルから、なおさらネ」

 さんは、やはり白ボスのことを特に意識はしていないように見えますか?

「アー…ナンカあの子モ、てユーカ、あの子のほうガ病巣が深そウだよネ。イヤ、……アー…コレってサ、絶対ダレにも情報漏れたリしない? ダイジョブ?」

 はい。これはギアステーションとはまったく無関係な調査ですので、外圧等により情報が外に漏れることはまずありません。ここでの内容は、厳守されます。

「……ホント? イヤ、白ボスにバレたらマズいんだヨネー。アーケオスのじしんナンテ、俺受け切れル自信ないシ。
 俺、前にと二人デ、ごはん食べ行ったコトあるのヨ。イタリアン。いつぐらいだったカナー、だいぶ前。…白ボスがのコト好きーって言い出すヨリ前だヨ、一応誤解のナイよーに言っておくケド。誘ったノは俺。デモ、正直いいですよって言ってくれルとは思ってナくてサ、に直接聞いタんだヨネ。ナンデ?って。そしたラあの子、なんて言ったト思ウ?」

 ……わからないです。奢りだから、とかですか?

「アア、イイ線いってル。でもハズレ。…あの子、『だってこれ、遊びでしょう?』 って言ったんダヨネ」

 ……………………。

「まあネ? 俺も女の子タチとは、割とソノとき楽しければイイヤ、みたいナ遊び方するほうダカラ、の言ってルことは間違いナク正解。俺も完璧にソーユーつもりガあって誘ったワケじゃナカッタけど、って真面目そうなワリに意外と下ネタにも耐性アルし、もしイケるならー…って、これっぽっちも考えてナカッタかって言ったラ、ソレは嘘。
 ……ってこう、ボン・キュッ・ボン!みたいナむしゃぶりつきたくナルよーな体つきじゃナイけどサ、なんだろ、手籠めにシタイってゆーノ? 無表情ってワケじゃないケド、割とクールなトコあるカラ、あーゆーコが顔真っ赤にシテんのトカって、結構ソソるってゆーかネ」

 さ、さあ。わたしには、わかりかねます。

「ア、ごめんネ? 女の子相手に。
 まあデモ、ソーユー下心もあったワケ。そしたら、当たり前みたいナ顔シテあんなコト言うんだモン、俺のほうガ居たたまれナクなっちゃっテサ。結局フツーにごはん食べテ、チョットお酒飲んで、健全にサヨナラしたってワケ。…今ではホンット、心の底からヨカッタ!って思ってるケド。食ってたラ、俺、間違いなく死んでル」

 “だってこれ、遊びでしょう?”――は、なかなかショッキングな言葉ですね。

「俺みたいナ奴の誘イに乗っテきてくれル女の子っテのは、大体そーゆーコトを承知デついてキテくれるシ、俺もそーゆーのがワカッテるコじゃないと誘わナイんだケド、の口デそー言われルとネ。…ダッテつまり、『遊びならいいですよ』 って言ってるヨーなモンでしょ、コレ」

 確かに、さんのイメージとはあまり合わないです。

「そーなんダヨネー。しかも、言いながラ全然楽しソウでも、嬉しソウでもナイんだヨ。昼、仕事場で 『これコピーしてキテー』 って頼んダラ 『わかりましたー』 って答えルみたいに、あーゆーコト言う。俺、チョット自信なくしたモン。俺の相手スルのって、事務仕事と一緒?みたいなサ。
 ……“遊びならイイ” ッテゆーか、“本気はダメ” ってコトなのカナ、もしかスルと。ちゃんト聞いたコトなんてナイカラ、わかんないケドネ」

 本気はだめ、ですか。

「俺カラ言っといてナンだケド、モシそーなるト白ボスはツライよネ。今更遊びナンカじゃ収まんナイし、だかラと言っテ、本気ならダメって言わレル。……うーわ、俺なら諦めちゃうワー」

 そういえば、白ボスのお気持ちっていうのは、職員さんの中ではもう有名な話なんですか?

「どーダロ、割と有名なんじゃナイ? なんたってサブウェイマスターだし、白ボスも黒ボスも、昔っカラ人気あったモン。まあデモ、ギアステーションって結構デカいし、他部署では違ウかも。とりあえず運輸と駅業務部デハ、知らナイひとなんテいないんじゃないカナー。むしろ、そのヘンは女の子のほうガ詳しイと思うヨ」



証言3 (駅業務部窓口担当、Sさん)

 お時間とらせてすみません。白ボスについて、お伺いしたいのですが。

「えっ、白ボスってクダリさんのことですか? わたし、ボスたちとは全然親しくないので、大したことはお話しできないと思いますけど…」

 いえ、ご存知の範囲内のことだけで十分です。よろしくお願いします。

「あ、よろしくお願いします」

 白ボスとは親しくないとおっしゃっておられましたが、仕事中、会話をする機会等はあまりないのですか?

「あまりない、なんてものじゃないです。全然ないですよ。業務部と運輸部って仕事内容とか、実際の職場とかも結構近いので、そういった意味じゃ他部署より挨拶する機会くらいは多いかもしれないですけど…、お話ししたことなんて、本当に数回くらいしかないです」

 ご自分から、話しかけに行くことなどはないのですか?

「そんな、とんでもないです! わたしたちから、直接ご連絡差し上げなくちゃいけないことなんてめったにないですし、業務以外のことでお話しなんて、とても……」

 先日、駅業務部と運輸部の合同で行われた忘年会では、白ボスと近い席に座ってらっしゃったとお聞きしましたが。

「あ…それは、同じ部署の友達が “ATS” のメンバーで、彼女にどうしてもって頼まれて、その…」

 話の腰を折って申し訳ないのですが、“ATS” についてご説明していただいてもよろしいですか?

「あっ……えっと、その、」

 ここであなたからお伺いした内容が、外部に漏れることはありません。確実に厳守されます。

「………サブウェイマスターのお二人の、ふぁ、ファンクラブ、みたいなものです…非公式の……」

 なるほど、それで “ATS”、“自動列車停止装置” というわけですか。お友達がそのメンバーということですが、あなたは参加しておられないのですか?

「………………ってます」

 申し訳ありません。もう一度お聞きしても?

「……………入ってます……」

 では、近い席に座れたのはあなたにとってみても幸運だった。

「…そう、ですね。正直とてもラッキーだったと思います、いつもすぐ他の人にとられちゃいますから」

 そのときはどんなお話を? もちろん、差し支えのない範囲で結構です。

「それが、…ぜんぜん、お話しできなくて。友達がクダ……白ボスの正面で、わたしは彼女の右隣に座れたんですけど、もう、わたしも友達も緊張しちゃって…。白ボスがその席に座ってるあいだ、まともに顔なんて上げられませんでした。…それに…、」

 白ボスの機嫌が、よくなかったのですね?

――…はい。せっかくお話しできる席には座れたんですけど、あまり、お話しできるような雰囲気じゃなくて。周りの人が話しかけたら一応答えては下さるんですけど、芋焼酎、っていうんですか?それのお湯割りを飲まれて、割と早い段階で酔われてたんです。食事もあまり進んでらっしゃらなかったですし…」

 原因について、なにか心当たりはありますか?

「それは、…もちろん。わからないひとなんて、他部署を含めても、ほとんどいないんじゃないかな。
 少なくとも、白ボスの近くに座っていた人たちはみんなわかってたと思います。……白ボス、ずっとさんのほうばっかり見てるから。噂話を知らなくたって、嫌でもわかっちゃいますよ」

 さんとは、親しいのですか?

「いえ、全然。部署も入社時期も違いますから、サブウェイマスターのお二人以上に接点は少ないと思います。
 だから、さんのことは “運輸部の事務職として中途採用された方” っていうことのほかに、パーソナルなことは全然知らないんですけど、その…白ボスはやっぱり人目を引く方ですから、いろんな噂話があって…、それで…」

 さんのことは、噂話でご存知になられたのですか?

「…はい。最初にその噂話が聞こえてきたとき、みんな 『誰それ!?』 ってなって…。さんって、“かぶりつき” にもほとんど出席されないから、」

 ……すみません、“かぶりつき” というのは一体…、

「あ、“上司がかわいすぎて仕事が手につかない” の会のことです。先頭車両、運転席のすぐ後ろから前方の景色を眺めたり、乗務員の様子を観察したりすることをもともと “かぶりつき” っていうんですけど、わたしたち自身、あんまり変わらないよねってことでそんな隠語が」

 なるほど。

「その “かぶりつき” には運輸部の鉄道員さんたちも頻繁に出席されてて、いろいろお話聞かせていただけるんですけど、さんはそれにもほとんど顔を出されませんし、もちろん “ATS” にも参加されていないので、みんなさんのことは知らなくて。
 わたしは一応、名前だけは把握させてもらってたんですけど、やっぱり何も知らなかったから。一時期、みんなすごい血眼になってさんのこと調べてましたね。……あ、なにか嫌がらせがあったりとか、そういうことじゃないです! 更衣室で一緒になったときとかに、ちょっと長めに無駄話したりとか、その程度。みんなそれなりに忙しいですから」

 じゃあ、もうずいぶん前から、二人のことは有名な話、ということなのですか?

「一番知られるようになった――みんなが納得した…っていうのも、変な話なんですけど、」

 はい。おっしゃりたいことのニュアンスは、なんとなくわかります。

「ありがとうございます。去年、まださんが派遣社員としてギアステーションに勤務なさっていた頃なんですけど、さん、タチの悪いお客様に暴力を振るわれそうになったことがあるんです。
 あのときは確か、ほかの路線でトラブルが発生して、お客様の対応はさんおひとりでされてて…その知らせをお客様から聞いた瞬間、クダリさんの表情がサッと変わったんです。もう全然、笑ってなんかいなかった。それですぐ走って行かれて…、」

 まるでヒーローみたいですね。

――…わたしびっくりしたんですけど、さんって、全然泣かれたりとかしなかったんですよね。見ず知らずの男の人にいきなり掴み掛られて、突き飛ばされたのに、彼女を守ろうとしたヒトモシを抱いて 『大丈夫です』 って言うんです。…そんなさんを見るクダリさんのほうが、なんだかすごく辛そうで。
 でもやっぱり混乱してたのかな、さん、ヒトモシを抱いたまま立ち竦んでいらして。……何をお話しされたのかまでは聞こえなかったですけど、クダリさんがこう、…抱き寄せてるわけじゃなくて、でもすごく自然に体を寄せて、さんの…あ、あたまのてっぺんに、キス、してらして」

 ―――…わお。なんだか映画みたいですね。

「でしょう? わたしもそう思いました。…でもそれを見て、なるほどなっていうか、ごちそうさまっていうか、そういう気分になって」

 ああ、“ごちそうさま” っていう感じ、なんだかすごくわかります。

「みんなそうなんです。あの二人が話してたり、休憩室にいたりすると、すれ違ったときに 『いまあっち食堂車になってるから』 とかって言うんです。覚悟していけ、とか、大した用じゃないなら後にしろ、とかそういうニュアンス」

 食堂車、ですか。なるほど、“ごちそうさま” ですね。

「はい。あんなにわかりやすいのに、どうしてさんは気付かないのかなって。それだけが不思議でならないんですけど……、“だから” なのかなって、最近は思うようになりました。
 ……せっかく、直接クダリさんからお話を聞けるチャンスだったのに、忘年会のことは本当に残念です。あの空気の読めない新人くんのせいですよ、まったく」



証言4 (新入社員(研修中)、Kさん)

 先日、配属された駅業務部で、忘年会に出席されましたよね?

「え……ああ、はい。運輸部と合同だったやつのことですよね? はい、出席しました」

 その席でのことを、少しお伺いしたいのですが。

「……別に、大してお話しできることなんてないっスけど。先輩たちと普通に飲んで、喋って、…ただそれだけです」

 お話しされた “先輩” というのは、具体的に?

「………………。なんでそんなこと聞くんスか」

 ――…はい?

「なんでそんなこと聞くんスか? 別に、俺がどこのだれと喋ってたっていいじゃないスか。席順だって、別に決まってなかったんだからどこに座ってもいいはずっスよね? 隣になったのはたまたまっスよ、たまたま」

 ……どなたと、隣の席になられたんですか?

「……っ、運輸部の、あの…事務の人ですよ」

 さんのことですか?

「さあ、そんな名前だったかな。あんま覚えてねーけど」

 あの…、さっきから何を苛立っていらっしゃるのですか? わたし、なにかあなたに不愉快な思いをさせることをしたでしょうか。

「イラつくのも当然でしょ。あの日以来、全然知らねー先輩たちに 『なんであんなことしたの』 とか 『もうちょっと空気読んで』 とか言われまくって……、なんなんスか、俺そんなしちゃいけないことしたんスか? 別に、“あ、なんかちょっとイイな” って思った女の先輩のとなり座って、話してただけじゃないスか! それが、そんな怒られることですか!?」

 あ、いえ、あの……何か、あったのですか?

「あ、すいません……。ちょっと最近、いろいろあって…。
 あのひと、なんか、年上なんだけど “ちまっ” としててかわいいなって思ってたんスよ。で、タイミングよく飲み会があるっていうから、なんか話できるかなーって…そしたらなんか、いろいろ面倒な感じになっちゃって」

 面倒な感じ、というのは、白ボスが関わることですか?

「はい、まさにそれっス。忘年会が始まる前から白ボスにはガン飛ばされるし、途中からはすげー近くで 『どっか行っちゃえ』 みたいな顔されるし、終わったら終わったで職場の先輩たち…主に女なんスけど、そのひとたちに 『あんた何してんの、バカじゃないの?』 とか 『空気読みなさいよねほんと』 とかもう、散々言われまくって……仕事で怒られるより先にこれって、ちょっと冗談キツくないっスか?」

 それは、大変でしたね。

「大体、俺、別にさんのこと口説いたりとかしてたわけじゃないんスよ? 入社したのは俺のが少し早かったけど、去年一年、派遣として働いてたって言うから、どんなことしてたのかとか、ほかに派遣でどんな仕事したりしたのかとか聞いてただけで。
 ……まあ、いま彼氏いるのかっていうのと、好きな人とかいるのか、ってことくらいは聞きましたけど」

 白ボスとさんの噂などを、耳にしたことはなかったのですか?

「……いや、ギアステーションで働いてて、聞いたことない奴とかほとんどいないと思いますよ。つか、噂知らなくても、見てりゃわかりますし」

 知っていてもなお、さんに興味があったということですか?

「むしろ、そーゆーの聞いたことがあったからこそ、みたいな感じっスかね。だって、興味ないっスか? あの白のサブウェイマスターに迫られて、落ちない女とかフツーありえないっしょ。
 それに、白ボスが一年くらい前からさんにちょっかい出してたっていうのは聞いてたんで、そんだけ時間かけてもダメなら、もう見込みなんてないんじゃねえの?って……。なら、俺にもチャンスあるかなーと思ったんスよ」

 実感としては、どうでした?

「白ボスが想像以上に余裕なかったっス。俺みたいなガキがちょろちょろしたくらいで、警戒心バリバリなんスもん。目がもう全然笑ってなくて、さすがにちょっとビビりました。
 さんは、なんか、想像以上に変なひとでした。スゲーいい人なんスけど、腰に白ボスがしがみついてんの放置で俺と喋ってるって、どーゆーことなんスかそれ、みたいな。たぶん、あれ酔ったフリだったんだろうなあ、白ボスは 『きみ、そこどいてよ』 とか平気で言ってくるし、さんはその白ボスに 『クダリさんが席に戻ればいいじゃないですか』 って平然と返すし。俺、席立とうとしたんスけど、さんに引き留められたんスよ?」

 そのまま席を立たせてくれたほうが、よかったかもしれませんね。

「ほんとっスよ。……でもなんか、全然相手してないわけじゃないんスよね、さんって」

 どういうことですか?

「まるで放置してるみたいにも見えるんスけど、白ボスが食べそうなものをお皿の隅によそってたり、お店の人に氷水頼んでたり。なんか、そういうことをしれっとやるんですよね。すっげえめんどくさそうな顔しながら。
 で、本気でやめてほしいこと…たとえば、さんが他の人と話をしているのを白ボスが邪魔したりだとか、そーゆーことに対しては 『やめてください』 ってスゲーぴしゃりと言ってたんで、逆に考えると、白ボスにしがみつかれてんのは、そんなにイヤじゃなかったのかなーとか」

 …なるほど、そうとも考えられますね。

「まあ、どーでもよかっただけなのかもしれないっスけど。
 でもなんか、そーゆーの見てて、白ボスが言ってたってこと、なんとなくわかった気がして…」

 白ボスがおっしゃっていたこと、ですか? それはどんな?

「少し前、研修で配属されてた部署の先輩に聞いた話なんスけど、そのひと、前に白ボスに聞いたことがあったんだそうです。『さんのどこがそんなイイんスか?』 って。そしたら、」

 そうしたら?

「少し考えたあと、そりゃもうめっちゃイイ笑顔で言ったらしいっス。『ぼくだけがわかってるからいいの!』 って」

 そ、れは、なんというか……ごちそうさまです。

「そんなん聞いたら、気にならないっスか? どんなひとなのかなーって。で、ふた開けてみたら…、」

 諸先輩方にお叱りを受けているわけですね?

「ほんと、勘弁してくれってかんじっスよ……」





証言5(ランプラー、♂)

 さんのことをどう思いますか?

? だいすき!」

 では、白ボスのことは?

「……ああ、白オバケ? だいっきらい」

 ず、ずいぶん落差がありますね。

「当たり前だろ、そんなん。
 のことは大好き。雰囲気とか、気配がぜんぜん違うから、最初はなんかいやだなって思ったけど、慣れれば平気。やさしいし、いっぱいぎゅってしてくれるし、俺をたくさんたくさんあいしてくれる、たったひとりのご主人だからな。
 白オバケは……白オバケってあれだろ、のこと、スキなんだろ?」

 えっ。さ、さあ…どうでしょう。

「いーよ、もう。なんとなくわかってるから。
 俺、ポケモンだから、ニンゲンがニンゲンをスキっていうのがどういうことなのか、よくわかんないんだけどさ。でも、俺がを好きなのとは、なんか違うんだろ?」

 わたしには、答えかねます。…すみません。

「そっか…。でも、俺のとは違うんだって、デンチュラさんが言ってた。なんかもっと、あいつらのはどろどろぐちゃぐちゃしてるんだって」

 ど、どろどろ……。言い得て妙というか、なんというか…。

「あいつ…白オバケさあ、の前じゃいっつもにこにこして、モンメンみたいな顔してるけどさあ、なんか目の奥がぎらぎらしてて、腹空かせたバルジーナみたいなんだ。…いや、あいつオスなのはわかってんだけど」

 お腹を空かせたバルジーナ、ですか。

「うん。黒オバケはぜんぜんそんな感じないんだ。ほかのニンゲンもそんなのねーのに、白オバケだけ、なんかすげえ嫌な感じ。…だから、俺あいつキライ。いつかのこと、取られる気がする」

 さんのこと、とても大切に想ってらっしゃるんですね。

「…俺、前はちがうニンゲンの手持ちだったんだけどさ。そのころ、生命力を吸い取る加減っつーの?そーゆーのがすげえヘタクソで、そいつの生命力吸いすぎちゃって……瀕死にしかけたことあるんだ。それが原因で野生に返されて、だから、もう二度と手持ちにはならないって決めてた。
 なんか、ってほんと、変な奴なんだよ。うまく言えないけど、違和感みたいのがすごくあって、はっきり言って薄気味悪いし、ちょっと怖い。だから俺たちポケモンにしょっちゅう襲われるんだけど、たぶん、そのおかげでは俺といても倒れたりしない。俺が加減まちがえて吸いすぎたりしても、へらへら笑って、俺のことなでてくれる。
 だから、と一緒にいようって決めた。が俺を大切にしてくれる以上に、俺がのこと守ろうって」

 ……あなたと白ボスは、本当はすごく話が合うと思います。わたしの勝手な想像ですが。

「…そうかなあ。だってバルジーナだよ? あいつ、いつか絶対のこと食う気だもん。あたまからばりばりむしゃむしゃいく気なんだ、ぜったい!」

 い、言い得て妙というか、なんというか……。

「ほら、否定しねえんじゃん! うわーやっぱやだ、あいつ絶対やだ!
 だってさあ、俺がにぎゅーってしてもらってるときのあいつ、すげえ顔してんだよ? 知ってる? 目がじっとぉー、ってしててさ、今にも舌打ちしそうな顔してんのに、と目があった瞬間にっこおって笑うの。気色悪い! あー思い出しただけでマメパト肌立つ!」

 白ボスは、あなたにヤキモチを妬いてらっしゃるのですよ(…ランプラーにマメパト肌…?)。

「それが気色悪いんだっつーの! 俺らにヤキモチなんか妬くか、ふつー!? あいつだって、に断りなく好き勝手ぎゅーぎゅーしてるくせにさあ。…第一、の背中に腕がまわるだけいーじゃんか! 俺なんか最近になってやっとだよ!?」

 ああ…ランプラーに進化されたから…。

「それに俺、知ってるんだ。あいつ、前のことほんとに食おうとしやがった」

 えっ、……えっ?

「俺がかばってケガしたとき! が弱ってる隙を見計らって、くちに噛みつこうとしてた!」

 あ、あー…なるほどー…びっくりしたー……。

「もう、俺びっくりしてさ。絶対させるか!って思って、のこと呼んだんだ。、すぐ気付いてくれたからよかったけど、あんときはほんとヤバかった。九死に一生を得るってやつだな!」

おんだりくさんが好きすぎて。
シイナさんにネタフリ頂きました。ありがとうございました!

2012/05/16 脱稿
2012/05/19 更新